あやうく、このタイトルで積ん読化させるところでした、小焼けです。
もともとのタイトルは
、「権三郎狸の話し」だったそうで、その方がしっくり来ます。


隣のずこずこ [ 柿村 将彦 ]
隣のずこずこ [ 柿村 将彦 ]

帯に小さく「日本ファンタジーノベル大賞2017受賞作」と書いてあり、しかも審査員の中に萩尾望都さんの名前があって・・・
(他の審査員の、恩田陸様、森見富美彦様を軽んじるつもりは毛頭ございません。)

どんなにファンタジックな世界が広がっているか、ドキドキしながら読み始めたのです。


・・・・
どちらかというとローファンタジーですね。

過疎の、いたって特徴のない、村人全員が知り合いで、でも子供たちは高校生になったら、地理的理由で全員村を出て下宿生活をしなくてはならない、長閑な寒村。

そこへ、伝説の“権三郎狸”が、連れ(というか通訳というか)のあかりさんというきれいなお姉さんと一緒に来て、言うことには。
「私は5月1日にこの村に来ました。そして5月31日に村を出ます。それから権三郎狸が村を壊します。あなたたちは丸呑みです。ごめんね。」
まさしく村に伝わる伝説通りのことが、その瞬間から始まったのです!!

5月1日現在で矢喜原町にいた人全部が狸に呑まれる対象だそうで、生まれは他所の人でも、5月中に遠くに逃げても助からないそうだ。
(過疎なのに町を名乗っているのは、後に伏線があるのでふれません。)

そう。
地球最後の日。矢喜原の人にとってだけ。(矢喜原=ヤキハラのダジャレらしい)
そして、権三郎狸に呑まれてしまった人の思い出は、誰の記憶からも少しずつ無くなり、そこに村があったことさえ忘れられてしまう、とな。
だから、現代といえどもマスコミのニュースにすらならない、そうな。

で、矢喜原の住民はどうしたか?

無気力に陥って、ひたすら毎日高級肉でバーベキューする人。
何も聞かなかったことにして、これまで通り、田植えに精出す人。
中学は…教師たちもとうとう出てこなくなり、授業は成立せず。
主人公のはじめ(女子)も、課題のワークもせず、毎日パジャマ着て家でゴロゴロ。

そんなものですかね?
なんかもうちょっと、ハデに能動的に動く人はいないものか?

まぁ、はじめの姉ひとみにあってはならないことが起き、結果、姉が自ら一足先に権三郎狸に呑まれてしまった、というエピソードから俄然話しが現実味を帯びてきて、権三郎狸が象徴でも記号でもないことが、はっきりしていくのですが。
それまでは読んでいる私自身も、本当の意味での最後の日など来ない前提ではないか、と思いながら読んでいたわけで。(;゜ロ゜)

だって、表紙絵にもある権三郎狸のビジュアルが、もろ信楽焼。

隣のずこずこ0

↑これは中表紙ね。

じぇんじぇん怖くないの。
でも、かわいくもない。
これにする必然があるのかなー。信楽焼狸の由来はこちら→

あえて、結末は書きませんが、かなーりズッコケました。
結局、権三郎狸とあかりさんに、なんらか意味のある行動を起こせたのは、はじめだけ。
そして、はじめの運命は分かりましたが、他の村人の辿るであろう運命については、ぼやっとしか分からない。
(このぼやっと感が、少しも楽しくない)

ハッピーエンドとは、とても言えませんし、明日への希望も、達成感もありません。
作者がそれでいいなら、いいんでしょうって思いました。

せっかく、この物語の結末日(5/31)に記事をアップしたんだけどねー。


疑問点もかなり残りました。
少しあげてみます。

そもそも、この伝説を幼いはじめに話してくれたのが祖父、というなら、少なくともはじめは祖父の思い出を、その部分だけでも失っていなかったことになります。祖父は話す度に内容が少しずつ違っていた…とあるから、記憶としてはかなり鮮明と言えるでしょう。なぜ覚えていたのでしょうか?

逃げた森田一家のことについても、まったく触れていないのですが。権三郎狸が、どうやって逃げた人を探して呑むのか、ヒントすらありません。
作中、呑むという行為はかなり物理的な動きのようですので、逃げれば助かりそうです。
権三郎狸に、なにかしら霊感的な察知能力があるようには書かれていません。謎です。

権三郎狸は火を吐ける。そして火を放って村を壊すのですが、いくら長閑な田舎でも火を免れる金庫だの地下室だのは、ありそうです。
そして、この土地に何があったのか、何をされたのか書き残そうとする程度の知恵者が一人もいない、のも不自然に感じました。いくら田舎でも、手紙を届ける郵便局員は来ますよね?



重箱の隅をつつくな、という考えもあると思います。
また、この作者は新人なんだから、そのような細部より全体設定のユニークさ、ストーリー運びの巧みさを評価せよ、という説にも肯首します。

でも、個人的にはタイトルの件も含めて(ずこずことは、狸の歩く擬音らしい)、なんだかなーの作品でした。
ファンタジーだから、なんでもアリ?




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